麻子は同じ職場で働いていた男と婚約をした。しかし挙式二週間前に突如破談になった。麻子は会社を辞め、ウエイトレスとして再び勤めはじめた。その店に<あの女>がやって来た…。
この表題作「地下街の雨」をはじめ、「決して見えない」「ムクロバラ」「さよなら、キリハラさん」など七つの短編。どの作品も都会の片隅で夢を信じて生きる人たちを描く、愛と幻想のストーリー。
ミステリーの短編集ですが、殺人事件ではありません(心中事件みたいなものや、直接関わりのない、世間の出来事としての殺人事件はありますが)。登場人物たちの人生を素敵に変える、または狂わせる、謎。どれも味わいがあります。表題作の「地下街の雨」は粋なお話しです。
「勝ち逃げ」もいいですね。お堅くて有能だったけれど、女性らしい魅力はついぞもっていなかった、女としてはつまらない人生だったと思われていた長女の葬式に、親族が集まる。いわゆる一番女っぽい末っ子のだらしなさと比べて、もっとも女らしくない長女という対比で長女の堅さを強調する。そして最後に、古い一通の手紙によって、長女の、傍目に《つまらない人生》に見えていた人生が、実は《ロマンスを秘めつつ、最後まで長女らしく生き抜き、多くの人に尊敬され敬愛され、締めくくった讃えるべき人生》にドラマチックに変えてみせるのは、さすが。古い一通の手紙の登場の仕方が良い。
「不文律」「ムクロバラ」「さよなら、キリハラさん」も、面白いです。珠玉の短編集ですね。